そう言って去っていったのだ。僕はしばしボホーンとした。「は?
何が面白くなかったんすか?」とも、「手洗ってから肩だろ!」と
も言えず、ボホーンとしていた。ボホーンである。その時かけてい
た眼鏡だけが文字通り小椋さんのお眼鏡にかなった。ちなみにこの
頃小椋さんは舞芸仲間から「天才」と呼ばれており(本人はとても
嫌がるが、僕は面白がって今でも言う)そんな小椋さんから面白く
なかったときっぱり言い放たれたときのボホーンは結構なボホーン
だった。
劇団の代表は僕と津村の二人みたいなものだったので、そこもよ
くない要因だった。前回も述べたが、津村はジャックナイフなのだ。
あの頃の津村は本当に怖かった。プロ意識なきものは去れ、甘いよ
お前ら。と豪語して劇団員の日常までも叱咤していた。正し過ぎる
ことを厳しく追及してくる男には何も言えない。皆津村には怒られ
ないようにしなければという空気が流れていた。(ホントに今とは
別人なんだよなぁ。今は全く怖い人ではありません。むしろこっち
が怒らなきゃならないことがあるくらいです)
こうしてこちらから辞めてもらった劇団員、その空気感に疑問を
感じ自ら辞めていく劇団員が増加していった。ちなみに古山は「俺
辞めます」と自ら辞めていった。流れる不穏な空気。もはやそこは
難破船。立て直し不能。そもそも楽しくないのだ。そしてある夜、
僕と津村が衝突した。
第ニ話「旗揚げまでに語るべきいくつかのこと(後編)」蓬莱竜太