前までは共に劇団をやっていくことを夢見ていた彼らに今度は雇わ
れ、表方裏方の関係として再会するわけである。
稽古場を覗けば更に奇妙な感覚に襲われた。津村たちはとても頑
張っていた。何年か前に「お前ら甘いよ」と言いたくなった津村の
気持ちもその時になればよくわかる。そして何より彼らは充実して
いるように見えた。僕が劇団を作った時にイメージしていたような
稽古場がそこにあり、彼らはそこにちゃんといた。違っているのは
僕だけである。作演出家ではなく、雇われた裏方としていた。まる
で間違い探しの絵のように、彼らはちゃんと正しく左右そのままな
のだが、僕だけ右(作演出)と左(裏方)が違って描かれているよ
うな気分だ。
津村たちは僕に対して優しく丁寧に接してくれていたと思う。僕
もそう心がけた。もうあの喧嘩は昔のことだね、あの頃はお互いど
うかしてたね、今はお互いの仕事を頑張ろうね、というテレパシー
を双方がそっと流しながら現場を過ごしていったのだ。
何年か前は彼らを演出していた僕が、今は彼らが立って喋るため
の木箱をセッティングしたり、彼らのために畜光テープを貼ったり、
彼らが登場や退場をする度に幕を介錯したりしている。全くストレ
スを感じることはない現場だったが、少しだけ自分を恥るような気
持ちがあった。あまりこっちを見て欲しくないような、柔らかい惨
めさがあった。
第三話「動機、欲求、始動する」蓬莱竜太