こうして一度限りの西條プロジェクトが始動したわけである。西
條さんは津村と古山をキャストにぶっ込んできた。上手くいかなか
ったメンバーを再び集結させるあたりはさすがぶっ込み西條だ。多
少の驚きはあったが抵抗感はなかった。お互いが以前と違う感覚で
出会うであろうことは想像出来ていた。僕には書きたいことが具体
的にあり、津村は先輩劇団で多くを学び、古山は色々なところで武
者修行を重ね、どこに行ってもしっくりこないという問題を抱えて
いた。皆、それぞれが頑張っていた。そもそもが楽なことではない
のだ、ということが何年かで理解出来ていた。
僕は「モダンスイマー」というタイトルで水泳部の合宿の話を書
いた。今読み返せばとても稚拙な作品だと思うに違いない。しかし
「集団と個」という興味をその作品で描こうとしていたのは事実だ。
本当に楽しんで書いた。楽しかった記憶しかない。稽古も楽しかっ
た。演出もやるべきことは明快に具体としてあった。僕は充分幸せ
だった。「芝居を創る」それがやれる生活とやれない生活の差は雲
泥、天地以上のものがあった。一人では演劇はやれない、という当
たり前のことを演劇から離れていた僕は痛感していた。今現在僕た
ちはそういうことを忘れがちになる。まず芝居を創れる環境がある
こと自体、幸運であり奇跡なのだ。
それ以上を望むことなんて欲のかきすぎだ。と、本気で思ったもの
だ。
第三話「動機、欲求、始動する」蓬莱竜太