「え、あぁ、いや、(本人が着ている稽古着のTシャツを掴んで)
これでいいかなと思って、え、駄目ですか?」
という台詞を聞く事になる。
駄目に決まってるだろ、と怒ると、
「はいわかりました。じゃあ、あたります」
とキリッとした顔で言う。ここまでがワンセットである。
ようやく一、二枚持ってきて却下されるとその後衣装に関しては音
沙汰がなくなる。身近なところでないなら、ないと言うべきなのに、
何より自分の衣装なのに、音沙汰がなくなる。普通に稽古をしてい
る。そして結局劇場入りしてから「まだ見つけられてない」という
話になる。あのキリッとした顔はなんだったんだと言いたくなるほ
ど情けない顔で「まだ見つけられてない」とか言っている。小学生
か!場当たりに間に合わせなければならないので、僕は母親のよう
に古山を連れて、高円寺の古着屋をまわり、赤いTシャツを選んだ。
白いペガサスのラインが入っているデザインだ。無意識に僕は、古
山よ羽ばたけ、自立してくれと、願いをこめていたに違いない。今
となっては思い出のTシャツです。
第四話「旗揚げ『モダンスイマー』」蓬莱竜太