二つ目の古山エピソードは本番中のことだ。 結論から言うと古山は本番中、客の目の前で、座長にマジビンタを 食らった。 古山はゲラなのだ。笑い始めたら止まらなくなる。それで西條さん は古山をビンタしたのだ。本番中、物語と全く関係なく、役の関係 性も全く関係なく、役者が役者をマジビンタする光景。僕は後にも 先にも見たことがない。  説明しよう。 その芝居の中盤あたりだろうか。天候がどんどん悪化して無人島を 流れる川が氾濫してくる。登場人物たちは向こう岸にどうしても泳 いで渡らなければならないというシーンだ。次々と飛び込みながら 向こう岸に泳いでいく水泳部員達。しかしカナヅチの男は怯えて渡 ろうとしない。ほぼ全員が向こう岸に渡っているなか、手前の岸に 残っているのはカナヅチの男役を演じるONEOR8の野本。そいつ の面倒を見なければならない部長役の西條さん、そして孤高の天才 スイマーを演じるクール古山である。ちなみに向こう岸に渡った部 員達は遠近感を演出するため人形劇となっていた。なので人形操作 で顔を沈めていたため、このビンタを直で目撃していない。非常に もったいない。 野本が西條さんの説得に対して、 「そんなこと言われたって、俺、自信ないですよ!」
第四話「旗揚げ『モダンスイマー』」蓬莱竜太